所属している部署では定期的にLT大会を行っています。今回は技術とは関係ないテーマで行うことになり、ちょっとマニアックな話でもしようと思って「現代音楽」を取り上げることにしました。せっかくまとめたので、若干内容を補足して投稿しておきます。
はじめに
私はかつて作曲を学び、作曲家になることを目指していた時期がありました。結局はうまくはいかなかったのですが、その中で出会ったものの一つが「現代音楽」です。「現代音楽」と言っても「現代」の音楽のことではなく、いわゆるクラシック音楽のひとつのジャンルで、20世紀初頭に流行したこれまでの音楽様式を否定した音楽のことです。この「現代音楽」を知ることで、音楽に対する観方、捉え方が大きく変わりました。
現代音楽は、大変難解な音楽なので、多くの方にとっては馴染みのない音楽だと思います。しかし、多くの作曲家たちが、長い年月をかけて確立されてきた音楽という概念を否定し、固定観念に囚われることなく新たな音楽を産み出そうとした凄まじいほどの熱意を現代音楽には感じることができます。一見すると意味不明な作品もたくさん作られています。しかし、どんな思いでこのような音楽が作られたのかその意図がわかると、たとえ耳慣れない音楽だとしても不思議なことに興味が湧いてきます。私もそこまで現代音楽を語れる身ではないですが、たまには音楽の話でも書こうと思ったので、今回「現代音楽」を取り上げることにしました。
現代音楽とは?
従来の音楽様式を否定した音楽
現代音楽とは、冒頭でも述べた通り、「現代」の音楽のことではなく、クラシック音楽のひとつのジャンルで、20世紀以降(特に20世紀前半から中盤にかけて)に起こったムーブメントを受けた前衛的な芸術音楽の総称です。これまでの音楽様式を完全に否定した音楽であり、「無調」、「強烈な不協和音」、「変拍子」などが特徴です。楽器の演奏に関しても、演奏会に行けば、ピアノにひじ打ち、泣き笑い、客いじりなどなんでもありで、こういった話をするとよく「意味不明」と言われます…。
ピカソやカンディンスキーなど絵画の世界でも20世紀前半に「人間性の表出を極限にまで避けて、素材そのものの提示にすべてを語らせようとする」方向に進み始めました。音楽も絵画の世界と歩調を合わせるかのように抽象化への道を突き進み始めました。
一般的な音楽は以下の3つの要素から構成されます。現代音楽における抽象化の動きは、これらを徹底的に排除する方向に進みました。
- 旋律(メロディー)
- 和声(ハーモニー)
- 拍子(リズム)
現代音楽の誕生に影響を与えた作曲家と作品
上記の音楽の3要素を破壊するきっかけとなったと言われている作品を紹介します。
<旋律(メロディー)を破壊した作品>
『牧神の午後への前奏曲』(1894年)― クロード・ドビュッシー
『亜麻色の髪の乙女』や『アラベスク』などでお馴染みのドビュッシーの作品で、マラルメの詩に触発され、半獣神である牧神が午後のまどろみの中で夢見た世界を音で描いた作品です。半音階の下降旋律、新しい和声や五音音階を使った新鮮な響きが特徴です。この作品により現代音楽が始まったと言われています。
<和声(ハーモニー)を破壊した作品>
『ピアノ組曲』op.25(1921-1923)― アルノルト・シェーンベルク
シェーンベルクは、「12音技法」という完全な無調の音楽を作るための作曲技法を発明しました。12音技法は、1オクターブ内に存在する12の音階を好きなように並べて音列を作り、その音列の並び順を最後まで守って曲を作る技法です。そしてこの曲がその12音技法で初めて書かれた作品となります。
<拍子(リズム)を破壊した作品>
『春の祭典』(1913年)― イーゴリ・ストラヴィンスキー
ストラヴィンスキー三大バレエのひとつで、ストラヴィンスキーの集大成と言える作品です。バレエ音楽でありながらも、それまでのバレエはおろか、音楽の概念をぶち壊した革新的作品でもあります。複雑なリズムのクラスター、ポリフォニー、不協和音に満ちていて、初演当時怪我人も出る大騒動となったことでも知られています。
現代音楽の聴き方
当ブログの『抽象表現主義の巨匠「ジャクソン・ポロック展」を観て』という記事で芸術の鑑賞について以下のように自分が思うことを書きました。
そんな現代の芸術は難しく意味不明で理解しがたいものがたくさんあり一般的に敬遠されがちです。私としては、わけのわからないものを無理してわかろうとせず(わかったふりをするのでもなく)、ありのまま感じるままに鑑賞することが大事だと思っています。しかし、それだけだとやはり意味不明なもので終わってしまう恐れがあります。そのためにも作品がどのような意図によって創作されているかを知ることがとても重要だと思っています。結局この手の芸術はコンセプトが肝になっている場合が多いですし、またそこを知ることが芸術の面白いところだと勝手ながら思っています。
つまり、なぜそのような作品を作ろうとしたかという作者の意図がわかると、その作品の見え方が驚くほど変わってきます。現代音楽に関しても、その作品の成り立ちやコンセプトを知ることで、何も知らなかった状態と比べてずっと面白く鑑賞することができるようになるかと思います。
現代音楽を聴いてみる
便利な時代になったので、YouTubeやGoogleの動画検索などで「現代音楽」と検索すれば、多種多様な現代音楽が聴けるようになっています。したがって、気になったものを手当たり次第聞いてみるのも良いかと思います(もちろん作品名などで検索して解説を読みながらです)。私の方でも、現代音楽の入門編的な作品をYouTubeからいくつかピックアップしてみました。さわりだけでも良いので、どんなものか実際に聴いてみるとなんとなく雰囲気はわかるかと思います。
『4分33秒』(1952)― ジョン・ケージ
4分33秒の間、演奏家はまったく演奏しません。その4分33秒の間に聞こえてくるすべての音がその作品そのものであるという作者ジョン・ケージの強烈なメッセージが込められた「現代音楽」最大の問題作と言われているくらい現代音楽を代表する作品です。
『ヘリコプター4重奏曲』(1993)― カールハインツ・シュトックハウゼン
ヘリコプターを4台飛ばして、それぞれにバイオリン1、バイオリン2、ヴィオラ、チェロの奏者が乗り込み、劇場の周りを飛び回りながら演奏を行う(劇場ではその映像を観る)と言う、かなりぶっ飛んだ作品です。
『ヴェクサシオン』(1893)― エリック・サティ
あの『ジムノペディ』で有名なサティの作品で、なんと世界で一番長いピアノ曲と言われている作品です。作られた時代的には現代音楽と言えるかは微妙なところですが、そのコンセプトはまさに現代音楽的なので紹介します。52拍からなる1分程度の曲をひたすら「840回」繰り返すという演奏する側も聴く側も忍耐が求められる作品です。全部を演奏すると18〜25時間くらいかかると言われています。
『ノヴェンバー・ステップス』(1967)― 武満徹
日本を代表する作曲家武満徹の作品です。おそらく名前くらいは知っているという方も多いのではないしょうか。オーケストラに邦楽器の琵琶と尺八を使ったまさに西洋音楽と東洋音楽の「融合」や「拮抗」を感じとれる作品です。
『片手のための2つの幻想曲』(2004)― Takanori Maeda
最後に手前味噌ですが、私の作品も紹介させてください。上で紹介したシェーンベルクによって発明された「12音技法」で書いた作品です。ピアノ曲というと両手で演奏するのが当然のように思われていますが、この曲は敢えて片手でのみ演奏する作品です。2曲構成で、1曲目は左手のみで演奏します。2曲目は、演奏が終わった1曲目を逆から右手のみで演奏します。「12音技法」だからできる、いわゆるシンメトリーを狙った作品です。1曲目と2曲目、それぞれどのような印象を受けるでしょうか?この作品は、2004年の茨城県新人演奏会で初演を果たしています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。一見意味不明なものでも、その作品の背景などを知って聞いてみると、多少は興味深く聴けたのではないでしょうか。なかなか受け入れ難いものだと思いますが、もし少しでも現代音楽に興味が湧くようであれば、未知の世界を旅する感覚で、どんどん現代音楽を聴いてみると良いと思います。新たな発見があるかと思います。作者の製作意図を知ることは、普段モノ作りを行っている私のようなエンジニアにとっては、大変刺激になります。YouTubeなどを利用すれば、いくらでも現代音楽が聴けるようになっているので、関連動画を辿ったりして、多種多様な現代音楽に出会ってみてはいかがでしょうか。
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