SNSで繋がった人々の力をどう制御するか?企業戦略のバイブル『グランズウェル』を読んで(レビュー)

同僚に勧められて読んだ『グランズウェル ~ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』。Webのサービスを構築していく上で何を重視し、戦略としてどのようにサービスに落とし込んでいくかなど、すごく勉強になりました。本書についてここで簡単に紹介したいと思います。

『グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』
(シャーリーン・リー、ジョシュ・バーノフ著/伊東奈美子訳/翔泳社/2008)

まずはじめに、以下に挙げる事例に共通することは何でしょうか?

  • 中東、アフリカでのFacebook革命
  • 日本の総理大臣の低支持率化
  • 高速列車事故発生時の中国政府の二転三転する対応
  • フジテレビの韓流騒動

それぞれ、政府や企業などの本来大きな力を持っているはずの組織が、つながりはじめた人々の力をもはやコントロールできなくなった象徴的な事例と言えるでしょう。政府や企業にとって、つながりはじめた人々を無視することは、自らの首を絞めることになりかねなくなりました。

もともとわれわれ人間は「つながりたい」という願望を持ち合わせていましたが、これまではつながるにしても、せいぜい現実社会における身の回りの人間に限られていました。しかし、昨今の急速なテクノロジーの発達により、インターネット(ブログ、SNS、コニュニティ、Q&Aサイトなどのソーシャルテクノロジー)を通して世界中の人々とつながることがとても簡単になりました。多くの人々が容易につながる術を手に入れるやいなや、その「つながりから産み出される力」は、これまでの常識を覆すほどの大きな影響力を持つようになりました。この本で言う「グランズウェル(大きなうねり)」とは、まさにその大きな力のこととなります。

本書は、50を過ぎた白髪混じりのソニー・エレクトロニクスの広報責任者がこの「グランズウェル」を目の前にして、どのように対処してよいのかなす術もなく、ただただうろたえるところから始まります。彼の知らない場所で、そして従来の広報ツールの通用しない場所で自社製品への攻撃がなされていたのです。長い年月をかけて自らが一生懸命育て上げてきたはずのブランドイメージも、この「グランズウェル」の波にのまれると、下手したら一瞬のうちに覆ってしまうと恐れを抱くことになります。これは「グランズウェル」以前の時代には到底考えられなかったことです。

特にITに疎い経営者であれば、わけのわからないものとしてインターネットの声は遠ざけ軽視してしまいがちですが、それで済むような時代ではなくなってきているのは明らかでしょう。しかしそれがわかっていたとしても、冒頭のソニー・エレクトロニクスの広報責任者のように何をどうしていいのかわからないというのがまず本音だと思います。

本書では、そうした経営者やマーケティング部門の責任者向けに、「グランズウェル」と向き合い、それをどのように経営やマーケティングに活かすかを説明してくれています。もちろん、それぞれの企業の戦略によって「グランズウェル」を活用する目的は異なるので、それを「グランズウェル」に耳を傾ける「グランズウェル」と話す「グランズウェル」を活気づける「グランズウェル」を支援する「グランズウェル」を統合するという5つの目的に分け、目的ごとに実際に企業の行った事例を挙げて、事細かに説明してくれています。この実例が実に豊富で、また具体的であり、さらにROI(費用対効果)についても触れられているので、とても参考になります。

実際に事例をもとにグランズウェル対策を行うとなると、本書にも書いてある通り、かなりの時間、根気、覚悟が必要となり大変と言えば大変なのですが、個人的には今この世の中で起きている「グランズウェル」を要因とした現象を理解できたという点だけでも、読む価値があったと思っています。すごく視野が広がった感じです。とにかく経営者のみならず必読に値する内容だと思います。この手の本は難解な文章で読みにくいものが多いですが、翻訳も含めて大変読みやすいのもお勧めの点ですね。日本ではなせかドラッカーの『マネージメント』が流行っていますが、すぐに実行できるという点においても、まずこちらを読む事をお勧めしますね。

そんなこの良書『グランズウェル』、最近書かれたのかと思いきや、2008年に発売されていると知り驚きました。つまり書かれている事例は2008年より前のこととなるわけです。日本では今読んでもまだまだ先の話のように感じてしまったのですが、世界はもうだいぶ先を進んでいるのかもしれませんね。

先日の話ですが、グランズウェル形成の場を提供するSNSを運営するmixiが、自社サービスの「足あと」機能廃止の撤回を求める1万7千もの実名の署名に対して、大変無機質なテンプレート回答を行ったという記事がありました。同様に口コミサイト「食べログ」を運営する価格.com(カカクコム)も、昨年すごくクレームの多かったiPhoneアプリの方針に対するユーザーの声を無視し続けたという話もありました。こういう企業ですら自らのサービスの本質に気づいていないという実情を見ると、まだまだ日本ではグランズウェル軽視の傾向が強いと言えるし、それ以前にグランズウェル対応という発想すらないと言えるのではないでしょうか。保守的な企業では、いまだに経営陣の声が第一だったりしますしね。

その点、任天堂の先日のニンテンドー3DSの値下げに踏み切ったときの対応はすばらしかったと思います。発売から半年での値下げという決断、値下げ時のユーザーへの配慮、まさにグランズウェルからの声を反映した見事な行動だったと思います。さすがグローバル企業は違いますね。

ただ遅かれ早かれ日本においても、グラウンズウェルをうまく使いこなすかどうかで企業の将来が決まってくるのは必至です。従来のやり方にとらわれていたら、先はないと考えてもよかもしれません。私の会社でもこの波に乗り遅れないように、社内の人間にこの本を読んでもらうように考えているところです。グランズウェルの波にのり、実行できることは実行していければと思っています。

最後に、この『グランズウェル』は2人の著者により書かれているのですが、今年に入ってからそれぞれ続編と呼ばれる本が日本でも発売されています。すでに『グランズウェル』は古いという触れ込みの下に書かれているので、だいぶ内容は斬新なものと予想します。近いうちにこちらも読んでみるつもりです。

『エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制』
(ジョシュ・バーノフ、テッド・シャドラー著/黒輪篤嗣訳/翔泳社/2011)
『フェイスブック時代のオープン企業戦略』
(シャーリーン・リー著/村井章子訳/朝日新聞出版/2011)

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